上田秋成著の『雨月物語』の中に『菊花の約』というお話しがあります。
あらすじっぽく書きます。
仲のよい学者と武士が菊の節句(九月九日)を再会の日として別れます。
学者は、九月九日になると朝から、出迎えるために心を込めて、準備をします。
武士は風に揺らめくように夜遅く現れるのですが、黙り込んだままです。
それには理由があります。
武士は用事があり、故郷に帰るのですが、
主君の命令で、城に捕らえられてしまうのです。
武士は、捕らえられたまま、約束の時を迎えてしまいます。
そこで、武士は自ら命を絶ち、魂となって、学者の下へ現れたのです。
真の友情とは、命を懸けてまで信義を重んじるものだと思います。
武士は、最期まで武士として信義を重んじ、自刃したのです。
この物語は、美しい友情物語であると同時に、
友情とは
信義を重んじるものだというメッセージを伝えてくれます。
三島由紀夫がエッセイにて「信義について」を書いていますが、
そこでもこの『菊花の約』に関して述べられています。
時間というものは、それ自体無意味なもの、約束というものは、それ自体儚いもの、
しかし、そこには信義が掛けられる、と三島は遺しています。
『菊花の約』は、約束が軽んじられるような世間にならないために遺された上田秋成のメッセージです。ぼくは、この物語を重く受け止め、これからも幾度となく読んでいくことでしょう。
[5回]
PR